眼鏡のPDはどうしていつも同じにならない?PDずれの誤差はどこまでが許容範囲か

眼鏡を作る時に欠かせないものの1つにPD(左右の黒目同士の距離)があります。間違った度数を入れると使いづらい眼鏡になるように、PDも正しい値からずれていないかを考えるのは重要です。

しかし何度か眼鏡を作った人は心当たりがあるかもしれませんが、このPDの数値は毎回同じ数字で処方されるとは限りません。
理由は後述しますが、1~2mmずれることはよくある話で、ひどいときは複数個作った眼鏡のPDが全て違っていて5mm以上の差があった…なんて話もたまに聞きます。
目と目の間の距離なんてそうそう変わるわけはないのに不思議ですよね。

この記事ではPDがずれる原因と、そのずれが本当はどんな影響を与えているのか、どこまで細かく気にすればいいのかを解説していきます。

特に眼鏡を変える度に違和感を感じてしまう人は、その原因がPDなのかそれ以外なのかの見当がつけやすくなると思うので、ぜひチェックしていって下さい。

 

実は一致しないことが多いPD

PDのずれはPDの軽視から起こる

両目を見せる女性

 

改めて説明しておきましょう。
PDとは瞳孔間距離のことで、左右の黒目のそれぞれ中央の一点を結んだ長さのことを指します。

眼科なり眼鏡屋さんなりで視力を測ってもらうと、レンズに入れる度数(SPH)と一緒にこのPDの数値も記入されているはずです。

PD
出典:グラスコア

これが眼鏡を作る上で欠かすことのできない数字なのは、レンズを加工する時に一番歪みが少なく見やすい光学中心という部分をこの黒目の中心に持っていきたいからなのです。
レンズ作成時に設定するPDの値が光学中心からずれるとレンズを通して見る景色も同じ方向にずれてしまうので、目は元々見ようとしていた場所を見るために余計な眼球運動を強いられます。
これが目の負担になり、眼精疲労や、悪い場合は斜位を引き起こす可能性すらあるのがPDずれの怖いところと言えるでしょう。

しかし困ったことに、目の検査をする人間の中にもこのPDをそこまで重視せずに適当に決めてしまうという実情があるようです。

なぜそうなるのか。
そこにはもしかしたら、度数を測ることに注力する余りPDに関することを軽視してしまう土壌があるからかも知れません。

 

機械だよりの検査員

視力検査をする時、多くの場所でまず行われるのはオートレフによる検査ではないでしょうか。

顎と額をくっつけてのぞき穴を覗くと中に気球やお家の絵があって、それをじっと見ていてくださーいと言われるヤツです。この機械で大まかな球面度数と乱視の強さや軸度を測定できるのですが、この時一緒にPDも計測してくれるのが検査員的にはなかなか有り難い。
ここでPDが出てくれることでスムーズに次の詳しい検査に移れるわけですから。

しかしこのオートレフ、あくまでもおおよそを出すための機器であるので、PDにおいても正確な数字がはじき出されるとは限りません。
具体的にいうと、測定中にお客さんが身じろぎをして顔が少しでも動くとPDもずれてしまいます。
しかもその場合でも数字自体はしっかり表示されるので、果たしてどれ程ずれてしまったのかがそこでは確認できないのです。

なので正しいPDを出すために、本来はオートレフとは別に確認作業をするべきです。
しかし検査員の中にはこのオートで算出されたPDで充分と考え、さっさと次の項目に進んでしまう人が少なからずいるようです。

あなたが受けた視力検査はどうでしたか?
専用のPDメーターを使ったり、サンプルレンズを入れるかけ枠のフレームをかけて瞳孔間距離を測ったり、片目ずつ目を閉じてそこに定規を当てて確認をしたりといった項目がちゃんと挟まりましたか?
そうでないなら、そのPDの信憑性は少しばかり下がるかもしれません。

 

意図的に行われる場合もある

悩むスーツの男性

上記のように、少々雑に計測されたことでPDがずれたというのが一番多いパターンでしょうが、それ以外にも検査員の方でわかった上で意図的に省略されたりずらされたりする場合があります。

 

可能性①度数が低い

ひとつめとして、検査を受けた人の度数が低いときが挙げられます。
詳しい計算は後ほど記載しますが、PDずれによる視界の歪みはレンズの度数が強ければ強いほど大きくなります。-6.00Dや-8.00Dなどの強度数の人であればPDが1mmずれただけでも大きな差になってしまいます。
しかし低度数であれば多少のずれは誤差で片付けられる範囲でもあるので、その際は改めて確認を行わず、オートレフの数値や旧度数のデータをそのまま入れることがあります。(勿論ホントはよくないんですけどね)

 

可能性②径や斜位などの要因

通常であればレンズに設定するべきPDは計測された数字そのままが入ります。
しかし例外として、レンズ径が足りないとか斜視や斜位を持っているといった際にPDの変更が行われることがあります。

レンズ径が足りないというのは、黒目と光学中心を合わせてレンズを削り出すと、レンズの位置がフレームに対して片側に寄りすぎてしまいうまく収まらなくなってしまう現象を指します。主に遠視や老眼の眼鏡で起こり、PDが狭くフレームが大きいほど発生しやすくなります。
これを内側に寄り過ぎないようにするためにわざとPDを本来より広くとる手法があるのです。
当然見え方は本来の位置より悪化するので、許容範囲なのかを計算した上で行われるべきでしょう。

斜視や斜位がある人は左右の目で景色がずれて見えるため、それを補正するために逆側に景色を動かすようなプリズムレンズを入れる場合があります。実はPDをずらすことでもこのプリズム効果が得られるため、状況によってはそちらで対応することが全くないとは言えません。
もちろん正規の手法はプリズムレンズを入れる方です。

紹介しておいてなんですが、上記のふたつは悪い例というか、苦肉の策みたいな話だと思って下さい。

 

可能性③手元用や遠近両用

たまにある勘違いとして、遠く用と手元用で作った眼鏡でPDが違う!と気にされる方がいます。

あまり意識はしないのが普通ですが、近くを見るときって実は微妙に寄り目になっているんです
なので手元用の眼鏡を作るときは、それに合わせておよそ1~4mm(もともとのPDの広さによって変わる)PDを短くするように作ります。つまり遠く用と手元用でPDが違うのは当たり前なんですね。
このパターンに当てはまる人は安心して下さい(笑)。

細かいことを言うと、手元用とひとくくりに言っても実際に使用する距離は人によって違いますよね。本や新聞を読む時の30~35cmがよくある設定ですが、これをもっと20~25cmくらいで読む癖がある人もいるかも知れません。また、PC作業で使う場合は40cm以上という可能性もあります。
近くに寄るほど目も内側に寄っていくので、その使用距離を鑑みたPD設定をしてくれる眼鏡屋はかなりの優良店です。

同様に遠近両用も、近くを見るための度数が入っているレンズの下半分は、遠くを見るための上半分よりやや内側に目がくるという想定で度が入れられています。
遠近両用のPDは遠く用のほうで記載されますが、たまにオマケで近用PDも書かれている処方箋があって、そこを見た人が勘違いをしてしまう事例もありました。

 

可能性④加工ミス

これ自体はわざと行われるわけではないのですが、実はレンズの加工中にPDがずれてしまうことがあります。

レンズ加工は、未加工の玉型レンズの光学中心と左右に印点を計3つ打ち、その3点の角度がずれないようにしながら機械に取り付けて加工を行います。なので印点を打つ時や機械への装着時にうっかり位置を外してしまうと、最終的に削り出したレンズを使った眼鏡のPDが本来と違ってしまうのです。
ほとんどの場合は問題のない範囲に収まるのですが、中には明らかにPDなどに大きなズレがあるのに修正もせず仕上げてしまった眼鏡を見かけることも事実です…いつも思いますがこれはなんなんでしょうね?

チェックを怠ったのか、ミスの発覚を怖れて見ないフリをしたのかもという点において、意図的というグループで取り上げてみました。

 

違うPDになった時どれを優先すれば良い?

選択肢の重要度

では実際に複数のPDを処方されてしまった時はどうしたらいいかという点について。

処方された場所で確認するのが一番なんですが、明らかにその人のPDと違うのに間違ってはいないと言い張るお店もあるみたいですね。腑に落ちる理由でもあれば別ですが、ただそう言われただけでは納得できないのは当たり前でしょう。

 

実際に自分で確認してみる

理由もなくPDずれが発生したなら、まずは自分の目で確認を取ってみるのが一番良いかと思われます。やり方が合っていればほぼ正解の値が出てくるので、それに最も近い処方がふさわしいでしょう。

方法はカンタン、両目に定規を当てて鏡を覗き込むだけ。鏡に映った定規の目盛りを読めばそれがそのままPDとなります。
もう少し丁寧にやるなら、

PDの測り方
出典:アームズショップ

こうすると、定規の目盛りを読む時に黒目が動いてしまうのを防止しやすくなります。

あと気をつけるとしたら次の点でしょうか。

 

・鏡に近づきすぎない
目盛りが見えないからと額が鏡にくっつくほど近寄ると、目盛りを読む目が寄り目になってしまいます。どうしても近づかなければ読めなくて何となく寄り目になっているような感じがしたら、測ったPDに1~2mm足しておきます。

・微妙なら狭い方を
PDは内側と外側どちらにずれてしまってもよくないのですが、敢えて言うなら内側ずれのほうがマシです
PDが内側にずれてしまうと見える景色も内側に動くので、元々見ようとした場所を見るために目を内寄せしなければなりません。
逆に、PDのずれが外側なら目も外に向けて動かそうとする形になります。

さて、目を動かすのは内側と外側ならどっちがラクですか?

そう、内側ですね。
よって、PDが内側にずれるほうがまだ目の負担は少ないと言えます。

 

PDずれの誤差はどこまでが許容範囲?

基準を測るものさし

処方PDが測ったPDと一致しなかった時、どれほどの違いなら誤差として扱っていいかも気になるところかと思います。
これにはしっかりと基準がありまして、シンプルな計算で求めることができます。

スゴく簡単なので試しにやってみましょうか。

 

PDずれの許容範囲を求める計算式

度数(D)×ズレ幅(mm)÷10

以上です。分かりやすいですね。
この答えが、

外側ズレなら0.5以下
内側ズレなら1.0以下

ならまあ充分実用に耐えるでしょ!というのがドイツのRAL基準という品質保証規格で示されています。
外側ズレのほうが基準が厳しいのは、上で書いてある通り目を外側に動かすほうが大変だからです。

この基準を越えてしまった場合は、見え方に支障が出る可能性が高くなってくるのでレンズの交換を視野に入れたほうがいいかもしれませんね。

 

ちなみに度数(D)は-や+を気にせずに数字のみを入れてください。
求めた値の単位は△(プリズム)といいます。

RAL基準をもう少し詳しく書くとこんな感じ。

度数(D)許されるプリズム量(外側ズレ)許されるプリズム量(内側ズレ)
0.25~1.000.25△0.50△
1.25~6.000.50△1.00△
6.25~12.000.50△1.00△
12.00~1.00△1.50△

レンズの度数によっても許容範囲に違いがあることを覚えておきましょう。

 

では実例で見ていきます。

右 -2.00D
左 -2.00D
PD64mm

この人のPDが測定ミスで66mmになってしまったとしましょう。
これを計算式に当てはめてみると、

2(度数)×2(66mm-64mm)÷10=0.4△

PDが外側にずれてしまった例なので、許される誤差は0.5△。つまりこの場合は許容範囲内に収まっているから大丈夫ですよ!となるわけです。

じゃあこの人の度数が-5.00Dだったら?

5(度数)×2(66mm-64mm)÷10=1.0△

残念!アウトー!となるわけです。
これが内側へのPDずれなら基準ギリッギリセーフというところでしょうか。

 

ただ気をつけてほしいのは、あくまでこれは製品を仕上げる側の基準であるということ。
当然ながらレンズのプリズム差に関して平気な人もいれば敏感な人もいるわけで、基準内に収まっていたとしても違和感の原因がPDでないとは言い切れないということだけは注意しておきましょう。

 

※補足※

  1. 左右で度数が違ったら、強い方の度数で計算して下さい。
  2. 乱視は軸度(AX)が90°の場合、その数字をそのまま球面度数(D)に足して計算して下さい。
    軸度が180°だったなら無視して構いません。軸度がナナメのときが少々大変で、『乱視度数×A÷90』を球面度数(D)に加えると答えが導き出されます。Aは【5°~85°までならそのまま、95°~175°は180との差】を入れましょう。めんどくさっ。

    乱視度数1.50D 乱視軸120° 球面度数-3.00D だったなら、
    Aは【180-120=60】
    よって『1.50×60÷90=1.00』なので、1.00+3.00=4.00を度数として計算します。ズレが1mmなら0.4△ということですね。

  3. 手元用眼鏡の場合は、RAL基準の外側ズレと内側ズレの位置が逆になります。(手元を見るときは最初から寄り目気味になるので、そこからさらに目を真ん中に寄せるよりは戻すほうが楽になってくるため)

 

見え方の調子が悪いPD以外の可能性

これもよくある質問で眼鏡の難しいところなのですが、新しい眼鏡を前と全く同じ度数とPDで作ったにも関わらず、何だか見え方の調子が悪くなるということがあります。
レンズデータ上は全くの同一なのに、とてもそうとは思えない違和感が出てくる。

これは何故かと言うと、大抵はフレームの位置取りが変わったせいであることがほとんどです。

この位置取りとはなにか。

重要な要素を選ぶなら、

頂点間距離(目とレンズの距離)
前傾角(横から見たレンズの角度)
そり角(上から見たレンズの角度)

の3つが代表的でしょう。

今眼鏡をかけている人は、眼鏡を少しうかしてみたりナナメに傾けてみたりしてみて下さい。この3つが見え方に少なからぬ影響を及ぼしていることが実感できるのではないでしょうか。

眼鏡のフレームのカタチは千差万別で、人の顔も全く同じものはないですよね。
つまり眼鏡をかけた時、フレームに取り付けられたレンズがあなたの目に対してどんな角度・どんな距離に配置されるかは毎回バラバラであるということです。
そして人の目はその微妙な違いを捉えてしまうので、人によっては同じ度数でも同じに感じないという事態が起こるのです。

仮に同じ型のフレームだとしても、鼻パッドやテンプル、モダンの調整でこの3要素は変化するので油断は禁物です。
逆に言うと、多少の調子の悪さならフィッティングで解決出来る可能性があるということです。これもまた眼鏡の難しくも面白いところですね。