眼鏡に入れられる度数の限界がいくつかご存知ですか?
たまにこの点について聞かれることがあるのですが、だいたいそういう場合ただの興味本位の質問ではなく、
今現在眼鏡の度数が強い人が
『このまま度数が進んでいったら、いつか眼鏡をかけても見えなくなる限界が来るんじゃないか』
という不安を内に抱えた際の疑問であるように思います。
これに返答するなら、
視力が出ない原因によって、眼鏡で矯正できる時とできない時がある
という答えになるでしょう。
この記事では
- 眼鏡で矯正できる状態と、その場合どこまで強い度が入れられるか
- 眼鏡で矯正できない場合は一体何が原因なのか
- 眼鏡でどうにもならない状況に陥らないためには何をすればいいか
などがよくわかるようになっています。
先にお伝えすると、原因への対処は早ければ早いほど効果があります。
少しでも視力に不安を抱えてここまで来た人は、ここで一度ご自身の状況とやるべきことの確認しておくことをオススメいたします。
眼鏡で視力を出すのに限界はあるの?
眼鏡の度数はここまで入れられる
実は眼鏡ってかなりのところまで度数が設定できるようになっているんです。
例えば、私がお店で主に使用しているメーカーのスタンダードなレンズでは、
単焦点
マイナス度数 (近視) |
プラス度数 (遠視・老眼) |
乱視 | |
屈折率1.60 | -16D | +8D | -5D |
屈折率1.67 | -16D | +10D | -6D |
屈折率1.74 | -20D | +10D | -4D |
屈折率1.90 (マイナスのみ) |
-26D | -4D | |
屈折率1.74 (両面非球面) |
-20D | +12D | -6D |
遠近両用
マイナス度数(近視) | プラス度数(遠視・老眼) | 乱視 | 加入 | |
屈折率1.60 | +3.50 | |||
屈折率1.74 | -18D | +8D | -6D | +3.50 |
さらにレンズの種類が非常に限られますが、やろうと思えばマイナス度数なら-30Dあたり、プラスはキャタラクトという目玉焼きみたいな形の特殊レンズで+16Dまで入れることが可能です。
「私かなり目が悪いんですよ」と仰る方も大体-6Dや-8Dのレンズが入ればかなり見えるようになることを考えれば、充分な度数が眼鏡には用意されてることがわかるでしょう。
私の経験上ですと、
- 余程酷い人でごく稀に-12Dあたり
- 過去最高記録で-18D
- 乱視も相当強いなと思う人で-3D前後
がせいぜいです。
つまり見え方を良くしたいとなった時、屈折異常が原因であるならほぼほぼ眼鏡で解決出来るということですね。
しかしながら、眼鏡屋さんに来店される方が全員よく見えるメガネを作れてあー良かった良かった大満足、とは残念ながらなりません。
それはなぜか。
次項で解説していきます。
最終的に視力が出なくなるのは度数が原因ではない
そもそもなぜ眼鏡をかけるとよく見えるようになるかというと、外の映像を受け取るフィルムである網膜にキレイに光が集まらない(屈折異常)状態を修正してくれるからです。
ひきち眼科
↑網膜にピッタリ映っている
ひきち眼科
(画像左)↑目の奥行き(眼軸)が伸びてこんな風にずれるとボヤける、これを屈折異常という
(画像右)↑眼鏡レンズを通すとこうなる!よく見える!
この屈折異常は、近くばかり見る機会が増えた現代の生活では正直誰でも進行してしまうものです。後で解説していますが、進行を遅らせるには日々の生活を改めることで十分効果が見込めます。
ただ今は一旦置いておきましょう。
問題なのは、屈折の問題以外にも映像の正しい認識の邪魔をする要因が存在することです。
例えば有名なところで
こんな風になっていたりすると、視力を上手く出すことができません。
網膜に上手く光が集まらないからではなく、光を受け取る場所自体に問題が発生しているパターンです。
病的近視と呼ばれて屈折異常とは区別されています。
目の機能はカメラによく例えられますが、
「ピント合わせにしくじってピンぼけ写真を撮ってしまった」というのが屈折異常。
「レンズが傷ついたりカメラを落としてどこかが故障して上手く映らない」というのが病的近視となります。
なのでこのように、網膜に映像を映す位置のズレ以外が原因だった場合はメガネでも視力が改善しないことがあるのです。
ちなみに「性能の高いレンズならもっとよく見えるか」という質問も頂くことがありますが、レンズのグレードはあくまでもレンズの屈折性能をいかに100%引き出すかに過ぎません。性能の高さで言えばHOYAやドイツ製のカールツァイスが有名ですが、レンズの屈折で対処できない状況ではいかに高機能レンズと言えども効果は期待しにくいでしょう。
改めてまとめると、
●何かしらの眼病が原因だと、どんなに度の強い眼鏡をかけても見え方が改善しない場合がある
となります。
では次なる疑問として、どうして眼球がそんな状態になってしまうのかを見ていきましょう。
病的近視の原因
目には様々な病気が発生します。
□白内障(水晶体が白く濁って目がかすんだり眩しさを感じやすくなる)
□緑内障(視野欠けが発生する)
□ぶどう膜炎(炎症による痛みや視力低下)
□網膜剥離(衝撃などで網膜が剥がれ視界に起こる)
□ドライアイ(涙が減り乾いたり充血したりする)
挙げ始めたらきりがありませんが、この辺りが【眼鏡で矯正できない状態】を生み出す原因としてよく知られている症状です。
ただこれらの原因は、先天的であったり、生活習慣病から突然発症したり、転んだり事故に遭ったりと様々。
これらを防ぐ方法を総括するなら『なるべく健康的な生活を送り、定期的な検診で早期発見・治療を行う』という説明になるでしょうか。つまり身もふたもないことを言うと、なるときはなるといった類の話になってしまいます。
しかし近年、
・眼病を発生させる原因として急激に増加中
で、
・私達の行動で進行度がかなり左右される
として注目を集めていることがあります。
実はそれこそが『強度近視』なのです。
強度近視を放置するとこうなる
強度近視とは、読んで字のごとく近視が著しく進んだ状態を指します。
どこからそう呼ぶかは諸説ありますが、おおよそ-8Dあたりからと認識されることが多いようです。
当然強い度数の眼鏡が必要になりますし、先にお伝えした通り屈折異常だけの状態であれば充分矯正が可能です。
しかしこの強度近視、ただ見えないだけではなくより厄介な病気を引き起こす元になってしまうのです。
前項で、近視とは眼球の奥行き(眼軸)が伸びて光がうまく像を結ばない状態だと説明しました。
では想像してみて下さい。
近視がどんどん進んで、眼球が縦に潰れたようにぐにょーーんと引き伸ばされてしまった状態を。
どうでしょうか。
ロクなことが起こらなさそうですよね?
具体的にはこんなことが発生します。
- 後部ぶどう腫というくぼみが眼球の奥に発生する
- ぶどう腫の細胞の壁が引っ張り伸ばされることで、映像を映す網膜が浮き上がって分離したり最悪の場合剥離する
- 弱い血管が発達して、しかも弱いので出血しやすく網膜をさらに痛める
- 変形や出血に伴って目の神経がダメージを受ける
そして引き起こされるものが
☆視力の低下
☆変視症
☆飛蚊症・光視症
☆暗転
といった症状となります。
実はこれらは徐々に進行するタイプの症状なのですが、その初期ではなかなか自分で気付くことができません。
仮に視界の一部がが欠けたりぼやけたりしても、もう片方の目がそれをカバーしたり脳が見えない部分を切り捨てることで「見えない」状態を意識させないように体ができています。
なので、
滅多に目の検査をしない人や度が進んだ人が眼鏡を買い替えに来た時に、
それ以上視力が改善せず異常が発覚することが多いのです。
度を強くするより強くしなくて済む方法を取ろう
大人になっても度の進む人が増加中!?
近視の進行は小さい子供の頃が最も早く、20代~30歳あたりまでで収まってきます。
しかし近年は40歳を過ぎても近視の度数が強くなっている人が多くなっています。
私達眼鏡屋の体感でもまさにその通りで、40どころか50過ぎの年配の方がぐんぐん度数が上がっていって愕然としているという場面に何度も遭遇することがありました。
その原因は、室内での行動、つまり近距離での作業時間が飛躍的に伸びたからだと言われています。
パソコンやスマホが爆発的に普及して私達はいつでもどこでも近くばかりみるようになってしまいました。これによりピント合わせのために目の筋肉が常に酷使されたり、眼球に力がかかることで変形が進んだりして視力が悪化するわけですね。
今や高齢者にすらスマホは普及し始めており、もはや国民総近視化状態といった状況になってしまっています。
いかに目を疲れさせないかが重要
この状況に対処するには、生活を意識的に変化させるしかありません。
目は使用されることで疲労が蓄積していきます。
夕方は視力が落ちやすいように、この疲労は目の状態を悪化させています。
そして視力の悪化はさらなる目の負担につながるので、近視の進行にストップをかけるにはいかに目を疲れさせないようにするかを考えるべきです。
一番やりがちで、一番やるなと言われたらツラい気がするものを最初にもってきました。
誰がツラいかって?もちろん私です。
寝る前に見るスマホは至福のひとときですが、寝転んだ状態というのはものを見るという点において何ひとつメリットがありません。やたら近くで見たりナナメに眺めたり、どうしても影ができて暗くなったり、顔を枕に押し付けることで物理的に負荷がかかったりして視力を低下させます。
大昔から言われている「姿勢を正しく、明るい場所で」というのは伊達ではないのです。
ピント合わせは筋肉の働きによってなされています。
一日中ずっと近くを見ているということは、一日中ずっと空気イスで授業を受けているようなもの。
いくら筋肉は使わないと衰えると言ったってやりすぎです。
やはり定期的に手元から目を離して遠い距離を眺めることで目の緊張を解いてあげるのが良いでしょう。
よく言われるのは”1時間に15分程度窓の外の景色を見て目を休める”ですが、実際そこまでインターバルを取るのは難しいと言わざるを得ません。
よってもう少しシンプルに、15分くらいおきに1~2分目を離すだけで効果があるという研究があるのでそちらを試すのもアリです。しかも外の景色ではなく部屋の壁(にかかっているカレンダーや時計)でも効果があるそう。
15分といえば、人間の集中力が保つのも15分というのが定説になってきました。ということは、仕事なりゲームなりネットサーフィンなりをしている時、フッと集中が切れて画面の中から意識が戻る瞬間が狙い目ということです。
このときに意識を手元から引き剥がすクセをつけてみるのはいかがでしょうか。
立ち上がったり、伸びをしてみたり、トイレに行ったり、他の用事を済ませてみたり。
目をずっと同じ状況に置かないというのが目を疲れさせないコツです。
病的近視は治療が可能か
そもそもの原因となる眼軸の伸びは元に戻すことが現状難しいと言わざるを得ません。
ですが、それにより発生する諸症状に関しては医療で対処する方法がいくつかあります。
強度近視状態では新生血管という非常に脆く出血しやすい血管が伸びやすいので、この血管の発達を阻害する薬剤を直接投与します。これにより血管の増殖を抑えることができ、眼内の血管と出血による圧迫を減らすことが可能です。
すでに伸び来てきてしまった新生血管を手術により切除したり、レーザーで焼いて固めることでそれ以上の進行を防ぐ方法。
目の大部分を占める硝子体という組織が網膜などを引っ張ってしまうことで網膜剥離や黄斑円孔を起こす前に、硝子体の問題部分を除去する手術。合併症の危険もあるが、成功すれば即座に視力の回復が見込める場合もあります。
まとめ
ここまで眼鏡が出せる度数の限界と、眼鏡が対処できる症状の限界を解説してきました。
眼鏡屋の検査も昔に比べて随分進歩してきたので、屈折異常なだけで視力を出すことが可能な人ならばしっかり見える眼鏡をお作りする自信があります。
ですが度数が進行した人はそれに伴った眼病を発生させやすいということを意識して欲しいというのがここでのお願いです。
特に若い人は環境が悪いと近視の進行が実に早い。
最終的に眼鏡屋ではどうにもならず、免許を更新する視力も出せずにお帰り頂くしかなかったという事例が何度もあり、実に無念な思いをしたものです。
眼鏡で何とか出来ることは必ず何とかしますので、それ以上の泥沼にはまらないようにお気をつけ下さい。