「裸眼なら見える」でも老眼だからね

つい先日のこと、70歳くらいの近視のお爺ちゃんから

『私は老眼ではないのだけれど、眼鏡をかけると近くが見にくいから見やすい眼鏡を作って欲しい』

という相談を持ちかけられました。

 

このお話の意味わかりますか?

 

近くが見えないんだから老眼じゃないの???と思った人は正解です。
まさにこの人老眼の症状があらわれているんですが、どうやら「裸眼状態でなら手元が見える」=「老眼ではない」と思っていらっしゃるようで、眼鏡をかけたときに手元が見えないのはメガネレンズの度数が悪いせいだと考えてご来店されたようなんですね。

手元を見ることを考えるなら、度数が合ってないという考えはもちろん間違ってないです。
ですから度数を弱めたり遠近両用レンズを入れたりすれば解決する話ですし、ほとんどの場合そういった流れで話が進みます。

 

しかし。

このお爺ちゃんはそうは問屋がおろしませんでした。

 

上記のことを説明したのですが、ご本人は「いや!私は見えているんだから老眼なわけがない!」と頑なに譲らない。
どうも身体はかなり健康な方のようで、どこにも異常がないことが自慢みたいなんですね。

だから老眼という症状(病気ではないんですが)もあるわけがない、とそんな感じでお話されていました。

 

 

さぁー困った。

別にこちらも無理して老眼であることを伝えたいわけではないんですが、先程も言ったとおりこの状態をレンズで解決するためには
①度数を弱める
②遠近両用レンズを入れる
のどちらかをしなければならない。

①なら遠くの見え方が犠牲になりますし、
②なら視野が歪んで狭くなり、なおかつレンズ価格も上がります。

しかし今回のお客さんはそこが納得いかない。

『老眼じゃないんだからそんなことを必要はないはずだ。当然遠近両用なんて私には不要』

 

…なるほど。
度数を下げずにちゃんと今までのように遠くも見えて、なおかつ近くも見える単焦点レンズで作ってくれと。

 

ないよそんなの!

 

眼鏡の仕組みは光とレンズの屈折現象を利用した物理的なものです。
特に近視は基本的に「遠くを見る」と「近くを見る」は目指す方向が逆になるため、どちらも完璧に見えるようになるレンズは存在しません。遠くが見えるようにレンズを作り、その人自身の目の調節力で近くを見るための力をカバーすることでようやくどちらの距離も見ることができます。

つまり年をとってそのカバー力(調節力)が潤沢でなくなると、遠くと近くの二者択一を誰もが迫られることになるんですね。

 

てなわけでその状態は自然の摂理。だから諦めてお爺ちゃん!

何度も挫けそうになりましたが、周囲から刺さる「なんとか出来るよね?」という他の店員の視線もあり最終的には納得いただけました。

まあそれでも遠近両用は抵抗感が強いらしく、遠く用と中間距離用の2本持ちということで解決。なんとか和やかに業務を終えることができました。いやー実に苦しい戦いだった…。

これだから販売業はやめられないぜ!