どうして自分だけ・・・眼鏡を錆びさせやすい体質の人が存在する!?

先日来店された方でこんな事例がありました。

その方は当店で眼鏡を購入して二ヶ月ほど経っていたのですが、その時に買った眼鏡を見せてもらうとなんとフレームが錆びだらけ。主にリム(レンズを固定する部分)とテンプルを留めるネジが見事に錆びていて、レンズの縁にもその錆びが張り付いて洗っても取れない始末でした。

その方の当店の利用は初めてだったのですが、聞くと今までも速度の差はあれ、使う眼鏡がすぐに錆びてしまう現象に悩まされていたとのこと。今回は特に悪化するのが早くて非常に困っておいででした。

特におかしな使い方をしたわけではないようでしたが、どうしてこうなってしまったのでしょう。

実は眼鏡に限った話ではないのですが、金属や鉄製品に触れただけで錆びを進行させてしまう体質の人が一定数存在するのです。仕事でも日常生活でもたびたび不便に見舞われそうなこの体質、一体原因が何でどうすれば解決できるのか、眼鏡屋の視点で考えてみました。

もしこの現象に悩んでいる方がいるのなら参考になれば幸いです。

 

眼鏡の錆びる主原因は?

錆びた線路

そもそもなぜ金属は錆びる

鉄や金属が錆びることの話を詳しくしようとするとキリがないので、眼鏡の関わることだけピックアップしていきましょう。

まず重要な点として、私達が日常目にする鉄や金属は、自然界にある鉄鉱石(=酸化鉄)から酸素を取り除いて作られる人工物であるという事実です。
つまり、私達が利用しやすいように本来自然ではあり得ない状態にされているので、鉄は酸素を取り込んで元々の安定した形である酸化鉄に戻ろうとします。

これこそが「錆びる」という現象。

この現象は、金属が酸素に触れていれば多かれ少なかれ必ず進行していきます。
そしてその多かれと少なかれを分ける大きな要因が、金属に付着した水分なのです。

錆びの進行は、基本的に「乾食」と「湿食」に分けられます。
乾食は金属が空気中の酸素や水蒸気、ガスなどと直接結びついて錆びていく状態、
湿食は金属に水分がつくことによってイオンが行き来して電気化学反応が進み錆びていく状態、とされています。

まあ細かいことはいいでしょう。
問題は、乾食より湿食のほうがはるかに速いスピードで腐食(錆び)が進むということです。
濡れているほどに錆びるのが早い。このあたりは私達が経験的に知っていることですよね。

ではもうひとつ、私達が思いつく錆びを進行させる物質は何でしょう?

 

錆びさせやすい人の共通項

汗をかいた男性

上記の答えは「」です。

金属に塩がかかると、あっという間に錆びてしまいます。
海辺の街なんかは潮風で腐食が進むのが早くて大変だなんて話をよく聞きます。

ただ一つ補足しておくと、塩自身が直接金属を腐食させるわけではありません。
塩は空気中に置かれると、空気に含まれる水分を吸い込んで溶けていきます(=潮解)。塩分と水分が混ざった塊がべたーっと広がっていくイメージでしょうか。
つまり塩分が付着している部分は、水分を吸い込み続けていつまでも濡れた状態を保ってしまうために錆びの進行が非常に早くなるというわけなのです。

 

では話を戻しましょう。
眼鏡に使われる金属が錆びやすい原因が水分と塩分だとして、人体からそんな感じのものが分泌されていますよね。

 

そう、のことです。

金属を腐食させやすい体質の人の多くに共通することとして、汗の分泌量が多いことが挙げられます。
シンプルにいうと汗っかきの人。特にちょっとしたことですぐに手汗をかいてしまうような人にこの症状は多いようです。あるいは汗の量がそこまでではなくても、含まれる塩分の濃度が高いことでも同じ結果を招きます。
サビが指紋の形に浮き出るなんて話を聞くとマジかと思うのですが、本当に少し触っただけの場所でさえ明らかにサビが発生しやすくなることがあるんです。このような汗の出やすさや手指の酸性度については自分でコントロールできるものではないので、この体質の方の苦労は察するに余りがあります。

 

少しでも錆びにくくするにはどうすればいい?

使ったら洗う

サビの最大の原因は水分ですが、それを招くのに塩分が大きな役割を果たしてしまっている事をお話しました。
さて、ということは対処法も単純ですね。

その塩分を洗い流してしまえばいいのです。

眼鏡のレンズならいざ知らず、フレームを毎日洗う人ってあまりいないですよね。
普通ならそこまでする必要は無いのですが、錆び手さんにとっては効果が大きい筈です。
一日の終わりのもう眼鏡を使わないなというタイミングで、流水でサッと眼鏡の表面を洗い流す習慣をつけてみましょう。普通の水道水で10~20秒くらいの短時間で構いません。

その時にもうひとつ、フレームの前に手も軽く洗っておてください。そうするとこでサビの原因になる物質を一時的に落とせます。皮膚の酸性度も中和されるので、洗ったフレームにサビの原因が居残ることを防ぎやすいのです。

 

水分を拭き取る

そして洗うよりさらに大事なのがこちら。

洗ったフレームの水分は可能な限り拭き取ってください
サビ原因が水分な以上当然ですが、気をつけたいのはパーツの隙間やネジの周囲に水が残りやすいこと。通常このあたりがサビることの多い場所なので、ティッシュなりなんなりを隙間に詰めるようにして水分をしっかり吸い取るようにしましょう。

その後ケースにしまう前に少し乾燥されられればなお良しです。
ただし室内の湿気が高いと逆効果なので、除湿をするかさっさと空気に触れない場所にしてしまうのがよさそうです。

 

油を塗る

サビ防止の他の考え方として、酸素が金属に結びついた結果でサビが起こるのなら、酸素に触れないようにしてしまえというのがあります。
どうするかというと、洗って乾燥したフレームに油を塗るのです。

そうすることでフレーム表面を油の膜が保護して直接空気に触れにくくなります。あまりベタベタさせても顔についてしまうので問題なので、サッとひと塗りするくらいがバランスの良いところかもしれません。
油は鉄・金属にさすものなら基本的に何でも構いません。ただし眼鏡のフレームによっては一部に金属以外のセル素材などが使われていることもあるので、そちらには油がつかないようにした方がいい場合もあります。

また、匂いが強い油もあるので注意しましょう。揮発してすぐ匂わなくなるかもしれませんが、顔の周りのことなので念の為。

 

素材を変えてみる

眼鏡がサビて困っているという人、今使っているフレームの素材は何ですか?
実はこの素材でサビやすさというのは結構変わるのです

様々な種類がありますが、メタルフレームであればチタンフレームがオススメです。塩分でサビにくく軽くて強度があるので、現在のメガネ市場ではスタンダードな素材でしょう。
まあサビに悩んでいるなら、すでにチタンにしているという方は多いかもしれませんね。

まだの方はぜひチタンを試してみましょう。安めのメタル、合金フレームをから変更すると錆びを感じにくくなったという人が結構います。
見方としては、お店で陳列されている眼鏡のテンプル部分かレンズに素材が記載されています。

例えばよくあるのもので、

  • F-TITANIUM
    T-βTITANIUM

などと書かれていますのでぜひチェックを。
これは「F=フロント部分はチタン」で「T=テンプル部分はβチタン(アルミニウムやバナジウムを混ぜて弾性が増したチタン素材)」ですよーという表記。
つまりフレーム全体がサビに強いチタン素材になっているので、錆びさせやすい体質に人には非常に有効なフレームと言えます。TITAN-Pやエクセレンスチタンなども同様の効果が期待できる素材です。

あと身もふたもない事を言うと、いっそのことセルフレームに変えてしまうのも手かもしれませんね。
ネジや金属部があまり露出していないものならあまりサビに悩まされることはなくなるんじゃないでしょうか。

 

相性で解決する場合もある

相談と解決

錆びさせやすい体質といえど、全ての品に対してそうであるとは限らないようです。
合金、チタン、超弾性、シルバー、カーボンチタン、ゴムメタルなど、眼鏡フレームに使われている素材は様々。相性によっては触れても影響の出にくい素材がある可能性も捨てきれないので、諦めずに探す価値はあるのではないかと思います。

例えば定番の純チタンやβチタンがダメでも、ニッケル合金や超弾性フレームなら大丈夫という方がいました。

ニッケル合金ニッケルと他の金属を混ぜ合わせたもの。ニッケルとクロムを合わせたサンプラチナが有名。
超弾性フレームTiNi合金やNT合金などと呼ばれ、型崩れのしにくいチタン+ニッケルの素材。

チタンよりやや重く金属アレルギーを引き起こしやすいというデメリットはありますが、サビに対してチタンとはまた別のアプローチをしてくれます。

中に含まれているニッケルやクロムに注目して下さい。
これらの素材もサビることはサビるのですが、他の金属のように赤錆や緑青が出てくるのではなく、不動態被膜と呼ばれる薄い透明の膜のようなサビになります。このサビは見た目には透明なのでほとんどサビているようには感じられません。そして先にこの薄い膜が張ることで、他の金属から赤錆などが発生することを防いでくれるのです。

サビることで錆びを防ぐ、非常に面白い発想の合金ですね。
ちなみにステンレスもこの仲間です。あれも表面を透明にサビさせることで見た目のキレイさを保っているわけです。

もちろん配合率などもあるので必ずしもサビを防げるわけではないですが、チタンがダメだったという人は試してみるのも良いのではないでしょうか。