『眼鏡をかけると視力が落ちる』のウソホント。本当に気をつけるべきは眼鏡の設定距離にある

裸眼だった人が少し目が悪くなってきた時、「眼鏡をかけると視力が落ちるから」と言ってかけようとしない人っていますよね。

お店に眼鏡を作りに来た人でさえ、視力検査の途中に似た質問が飛んでくることがよくあります。ここで眼鏡の度を強くしてしまうと目が悪くなるスピードも増すのではないか?という心配を皆さんお持ちのようです。

あれって実際どうなんでしょうか。

 

結論から言うと、

設定距離を間違えた眼鏡ならその可能性はある

ということになります。

む、それって一体どういうこと?
となると思うので、この後順番に解説していきましょう。

視力が出れば問題ないやと眼鏡を作る側もおざなりにしがちなのがこの問題。ちょっとしたことが将来の視力を左右しかねないので、ここで気を付けるべきポイントを確認していって下さい。

 

その眼鏡で見たい距離はどこ?

まず最初に明視域の話をさせてください。

 

明視域の範囲

何も目に力を入れずリラックスした状態でちょうどピントの合う位置を遠点。
そこから近くを見ようとする際、目の調節力を使ってググッと手前にピントを持ってくるのですが、そのピントを持ってこれる限界の位置を近点。

この遠点から近点までを明視域といいます。

つまり明視域の中でならモノがよく見えて、そこから外れると視界がぼやけてしまうというわけですね。

人によって明視域の状態は異なります。
例えば、

近視の人ほど明視域は近い(遠くが見にくく近くは見やすい)
老眼の人は明視域が短い(遠点から近くに持ってくる調節力が弱い)

といった感じ。

つまり考えるべきは、いつもあなたが見ている対象と明視域をいかに重なるように調整するかということなのです。

 

”よく見えるほうがいい”という大カンチガイ

よく見える景色

どうせ作るならよく見える眼鏡のほうがいいと思われるでしょうが、必要以上に遠くがはっきり見えるような距離設定をしてしまうと、明視域が自分から離れすぎてしまいます。
その離れた距離をメインで見る生活なら問題ないですが、大抵の方はそこまで遠距離を見る機会は多くないのではないでしょうか?

試しに普段の生活スタイルを思い出してください。
会社に勤めている人、主婦で主に家にいる人、学生、定年後の高齢者の方、皆さんの生活様式は様々ですよね。
当然眼鏡をかけて見たいものもバラバラ。

仕事ひとつとっても、オフィス勤務がほとんどで室内の掲示や人の顔がある程度見えれば良いのなら視力は1.0もいらないことが多いです。しかし見知らぬ土地に何時間もかけて運転していかなければならないなら、安全のために視力を1.2ほど確保しておくのは必要かもしれません。授業も黒板や白板までの距離が3メートルなのか10メートルなのかでは要する視力は大分違います。

つまり、度を入れて視力1.2が見える人がいたとして、本当に1.2まで見えるように作るのが良いかは人によって異なるのです。

無闇に見えるような距離設定は、近くを見る時に多くの調節力を使わせて目の筋肉に負担をかけ、視力を落としやすくなる原因となっています。
特に現代はスマホやパソコンを見る時間が最も多いでしょうから、矯正のし過ぎによる疲労はばかにできません。

あなたが普段必要とする視認距離はどれくらいでしょう。
眼鏡を作る時には、その点についてよく考えて見える距離の設定を行う必要があります。

 

弱すぎるのも同じくらい良くない

度が弱くて近くしか見えない

もうひとつよくあるパターンは、度が強くなることを妙に敬遠する人でしょうか。

こういう方は大抵、現用眼鏡だと日常生活に不便なくらい視力が落ちてしまっています。検査をしてみても、充分な視力を出すためには4段階5段階の度を加えなければならない状態。
確かに急激に度が変化するとぐわんとした使いづらい眼鏡になるので、見えやすさと使いやすさのバランスは慎重に見極める必要があります。しかしそのことを説明しても、ただただ度数が増えること自体を気にして可能な限り変化が少なく済むようにという要望が出てくるばかり。そんなに抑えたらせっかく新しい眼鏡を作るのに見え方はあまり変わらないですよとお話しても、頑なに態度は変わらない…。

強くするとすぐ目や頭が痛くなるからなるべく抑え目で、という話なら分かるんですけどね。
度数が強くなる=目も悪くなるという認識を強く持っている方は一定数いるようです。

勿論これも正しい状態ではなくて、弱すぎる眼鏡は遠くをムリに頑張って見ようとする機会が多くなり、やはり視力悪化を招いてしまいます。

 

検査時に納得いくまでチェックしよう

納得いった人

つまり肝心なのは度がどれくらい変わったかではなく、

◎見たい距離がどこなのか
◎それが見える度数で楽に過ごせそうか

の2点をしっかり確認することだと言えます。

これは眼鏡を作る本人にしかわからないことなので、この部分を何となくで済ませてはいけません。パッとかけて、だいたい見えるからこれでおっけーです終わり!みたいにしてしまうと、後々何かしらの悪影響が出てくる可能性が上がってしまいます。
自覚できる症状ならまだマシですが、気づかずに視力低下を加速させているとしたら実にもったいないですよね。

もちろん目の状態は自然と変わるので神経質になりすぎるのも考えものですが、少なくとも検査時にどこを見たいかという距離の設定を検査員に伝えておくのは重要なことです。

 

なぜ設定距離を間違えやすいのか

しかしその重要な距離設定は、しばしば間違った想定で作られてしまいます。
そうなりやすい要因を考えてみましょう。

 

みんなの視力1.0はそれぞれ見え方が違う

・視力0.3~0.4あたりで長年過ごしてきた人が、必要に迫られて作った眼鏡
・ずっと1.2を見えていた人が最近急激に視力が低下して作った眼鏡

こんな2つの案件があるとします。
どちらも装用後の視力は1.0。

しかし、同じ視力1.0だとしても、
「見え方の満足度」が同じとは限りません。

視力の低い状態でいた人は、1.0でも感動的なほどよく見えると感じるでしょう。
しかし元々1.2が見えていた人がかける1.0の眼鏡は、相対的にイマイチな見え方と感じてしまう可能性があります。

後者の人はもっと度数を入れて視力1.2を確保したいと希望する方が多いです。もちろん決してダメではないんですが、その人の生活環境を確認すると視力1.2が必要になる場面はとてもじゃないですがなかったりするんですよね…。
その上調節力の使いすぎによってピントを合わせるために使っている筋肉が疲れていき、一時的に近くの焦点が合わなくなって文字がぼやけたりという症状が発生します。

いわゆる【スマホ老眼】ですね。

近年、老眼を発症する年齢が30代でも増えてきています。
見えすぎる眼鏡で近くを見る時間が長いという視力のギャップは、このことに少なからず影響を与えているのかも知れません。

 

ぼやけてるのに気付いていない

他によくあるのが、自分が良く見えていないことに気付いていない場合。

「人とぶつかりやすくなった」
「運転でブレーキをかけるタイミングが不自然」
「掃除のやり残しが目立つ」

こういう方は、ご家族や友人に言われて初めて視力が不十分であることに気付きます。
しかし連れられていざ眼鏡を作る段になっても、現状あまり困ってないから、そんなに見えないわけじゃないからとなるべく弱い眼鏡で済まそうとします。

しかして実際は、ぼやけた景色に慣れすぎていて自分がどれほど見えていないかの自覚がなく、知らず知らず視力の低下に貢献してしまっているのです。

 

なるべくなら最新の度数に更新しよう

以上で見てきたように、「見えている範囲」と「見たい距離」の齟齬は目にとって決して好ましくはありません。

できるなら、眼鏡を作る前にいつもよく見る対象を眺めてみて、何が見えて何が見づらいのかをはっきりわかるようにしておくと良いでしょう。