未来を見せるコンタクト~スマートコンタクト『Mojo Lens』~

CNET Japan

SF映画で、
街をゆく主人公が視線を向けると、眼内の機械が作動して街の景色の中に建物のデータや案内看板が電子的に浮かび上がる───という1シーンを見かけたことはないでしょうか。

このような遠い未来だと思っていたSF技術が、実は間もなくやってくるかもしれません。

Mojo Visionが開発中のスマートコンタクト『Mojo Lens』が、まさにこの映画と同じような状況を作り出そうとしています。

スマートコンタクトで近未来技術を体験


日経XTECH

スマートコンタクトとはコンタクトレンズの一種で、レンズ内に半導体基盤を埋め込むことで(!)以下のような機能を備えています。

  • 六角形の幅0.48mm超薄型ディスプレイがレンズ中心部にあり、視界の一部に任意の文字(映像)を表示させることができる
  • 独自の無線通信機能があり、特定のデバイス(将来的にはスマホ等)と連動して様々なソフトを使用できる
  • バッテリー搭載型で無線給電が可能
  • イメージセンサー、ジャイロセンサーなどによりデバイスを経由せずとも視線の動きだけで機能を操作できる(目線をポインタとして活用)

 

むう、聞くだけでテンションが上がる内容ですね!
これはまさに空想の中にしかなかった未来技術が体験できるということではないですか。

 

現在確認できるデモ映像では、


ロードレース時の速度や心拍数、ゴールまでの距離(1:00~)、空港内でフライト情報等の取得(1:45~)


他にもゴルフ場でホール数、スコア、他プレイヤーのティショットのヤード数の表示。
また今年11月にはAlexaと連動可能なことが発表され、スーパーで画面上に購入予定のリストを表示させながら買い物をする様子が公開されています。
この状態でAlexaへ言葉で入力することでリストに新たな品を追加することが可能。なんでも家族が自宅からAlexaへ入力したものを反映させることもできるのだとか。

いやあ、未来っぽくて実にイイですね。

スマートコンタクトでも視力矯正は可能

ココも気になるポイントですが、調べたところちゃんと度数を入れることは可能なようです。
またレンズ外周部は基盤に覆われているので一見邪魔に感じますが、実際には黒目部分にかからなければ視界を塞ぐことはありません。これはカラーコンタクトと同じ状態ですね。

やはりコンタクトレンズと名乗るからには視力矯正はして欲しいので一安心。
実際にどれくらいの度数まで入れられるかは現状不明ですが、よほどの高度数でない限り対応してくれるはずなので、続報を待つとしましょう。

弱視対策としての可能性

黄斑変性症や網膜色素変性症患者への使用も想定しているということで、屈折異常以外の要因で視力が出にくくなる弱視の方でも活用できるように設計されているそうです。

詳しくはまだわかりませんが、角膜上という網膜から最短距離での文字表示であるため、確かに普段目が見えにくい人にとっても効果があるのは納得いくところ。さすがに視神経異常で脳への伝達が途切れてしまっているといったような失明状態には対応できないですが、それでも多くの弱視で悩む方々にとって大きな希望になるのは間違いないでしょう。

実用化の目処は?

さてそうなると気になるのはいつ頃このレンズが私達も利用可能になるかということですが、Mojo Lensによると実用化目標は10年以内とのこと。
現時点ではFDA(アメリカ食品医薬品局)の認可も降りておらず、開発者以外に実際に眼に装着する機会はありません。安全性を慎重に確認しながら機能面を充実させていく、そういった時期であるようです。

残念ですが、今しばらくは期待してゆっくりと待つとしましょう。

スマートコンタクトの問題点


MUGENLABO

非常に期待のかかるスマートコンタクトですが、時代の先駆であるため、まだまだ解決しなければならない問題をいくつも抱えています。

バッテリー消費

スマートコンタクトレンズのスペックを眺めていて一番気になったのが、バッテリーの持続時間。
2022年8月の時点の話ですが、メーカーはバッテリーが2時間持続することを目標としているようです。

さて問題はこの2時間というのが何を指すかですが…
例えば本当にそのまま、朝起きて充電機器からレンズを外した後のバッテリー持続が2時間だったとすると、デバイス機能を使いたい時にはバッテリーが切れている可能性が高く、正直ちょっと実用に耐えるとは思えません。
もしくは普段は通常のコンタクトをしておいて、スマート機能を使いたい時にレンズを付け替えるという手段になるかもしれません。でもこれはさすがに面倒ですよね。

解説によると『機能を呼び出した後、視線を外すとその機能をオフにできる』とあるので、デバイス呼び出しのオンオフはしっかりとできる模様。
よって恐らくですが、画面表示をオンにしたままの連続稼働時間が2時間ということになるのではないかと思われます。というかそうであって欲しい。

いずれは持続時間を気にせずに利用できるようになるのかもしれませんが、登場してしばらくは要所要所の必要なタイミングでのみ使用するというのがスタンダードになりそうです。

ちなみにレンズ度数自体はスマート機能とは関係なく入ったままですので、例えバッテリーが切れても視力矯正がなくなるわけではないので安心して下さい(弱視対策用のシステムはダウンするのでそちらは効果がなくなります)。

つけ心地、安全性

レンズ内に基盤を始め極小の精密機器を搭載しているので、通常のコンタクトレンズに比べると装用感や酸素透過性において問題が残る可能性はあります。

そもそもスマートサングラスは扱いとしてはコンベンショナルレンズ。いわゆるハードコンタクトと似たようなイメージで使用することになります。なので現在主流の使い捨てソフトコンタクトレンズしか利用したことがないよという方は、使い勝手が違うため慣れるまで時間がかかる可能性もあります。

ついでにいうとスマートコンタクトはCPUを埋め込む関係上、ハードレンズにも関わらずレンズ直径が17mmと非常に大きいです。例えば「メニコンZ」の通常規格が8.8mm~9.6mmですから、どれだけ規格外のサイズかがイメージできるでしょう。

そのため普通のハードのように黒目の上に浮くように装着するわけではなく、白目部分に固定するように取り付けることに。
全体的に厚みも出そうですし、瞬きするたびにレンズにこすれて違和感がでるなんてことも心配されます。

これが使い心地や安全性に与える悪影響をどれだけ少なくしていけるかが、今後の開発の重要なポイントになるでしょう。

使用時のルール整備

もうひとつ懸念されるのは、スマートコンタクトで普段の生活の行動中に必要な情報をリアルタイムで取得する際に注意が分散されることです。

どういうことかと言うと、(昔から映画やゲームで類似技術が登場する度に気になっていたのですが)視界内に何かしらの表示が出て来たらそっちに意識が持ってかれちゃいませんか?
移動中に道案内が表示されるケースを考えてみて、目の中にその案内の文字が現れてそれを読もうとしたら周りの景色が逆に目に入らなくなる可能性があるわけですね。自分は絶対そうなる自信があります。

現在移動中のスマホの使用に厳しい目が向けられていますが、同じように「歩きスマコン」や「運転スマコン」も重大な事故を誘発しかねません。なのでスマートコンタクトが実用化された際には、例えば『停止していないと画面が表示されない』など安全性の確保や使用ルールの整備は必ず必要になってくるでしょう。

 

まとめ

現在スマートデバイスといえば、メガネ型やヘッドセット型のものは多数発売されています。体験された方はAR技術の進化と可能性に未来の片鱗を垣間見たのではないでしょうか。
ただそういった機器はまだまだ本体サイズが大きくかぶったりかさばったりするため、日常生活に自然と取り入れるには難しい部分がありますよね。なので最終的には今回のようなコンタクトレンズタイプを目標として業界の開発は進むのかなと。

装着するタイプのスマートコンタクトの他にも、2016年にグーグルが眼球内に埋め込むタイプのコンピューター搭載コンタクト「サイボーグレンズ」なる技術の特許を申請していたのも記憶に新しいところ。

 

技術は進んでいます。
私達が気づかぬ間にも着々と。

未来は思ったほど遠くないのかもしれませんね。