パソコン用メガネの度数をどのくらい下げるかは、全ての見たい距離を考えれば決まる

パソコン用のメガネは度数を下げて作ると良い」というのが最近は浸透してきましたね。来店される方もそれを把握していて、私達も説明がしやすくなってきた印象です。

パソコンを見るには強すぎる度数が入っている場合、時間が経つと目が疲れやすくなるのは間違いないです。そのため、メガネの度数をパソコンがラクに見れるような数字まで下げるのがオススメです。

 

ただこの度数、闇雲に下げればいいわけではありません
パソコン用とひとくちに言っても、

・具体的に必要な距離はどこなのか
・その他に見えなければいけないものはないのか

など考えるべきことがまだまだあるのです。

 

ここではそれらを踏まえた上で、あなたがパソコンを始めとしたデスクワークをする時に普段よりどのくらいメガネの度数を下げればいいかを解説していきます。

『何だか最近パソコンで目が疲れるなあ』と思った方は、長く使っても疲れにくい度数の目安がつけられるようになるのでぜひ最後まで見ていってくださいね。

 

度数を下げる=見やすい距離が近くなる

まずはパソコン用メガネはなぜ度数を下げると良いのかという説明からいきましょう。
大体わかるよという方も、次項の本題に関わってくる部分なのでチラっと目を通してみて下さい。

 

さて、メガネの役割って何だと思いますか?

視力が良くなる」とお答えの方、間違ってはいません。
ですがもう少し正確に答えるなら「見たい距離を見やすくする」ということになるかと思います。

コチラをご覧ください。


プライオリティ・オプティシャンズ

それぞれ右側にあるのがあなたの目です。
そして上にあるほうが遠く用のメガネ、下にあるほうが近く用のメガネをかけた状態だと思って下さい。

当然ですが見やすい範囲(明視域)が違うのがわかりますよね。
明視域の左端が「そのメガネでハッキリ見える一番遠い場所(遠点)」
明視域の右端が「そのメガネでハッキリ見える一番近い場所(近点)」となっています。

遠点を見る時、目は特に力を入れることもなくラクに過ごせています。
近点を見たい時は、目の毛様体筋という筋肉が近くを見やすいように水晶体を頑張って厚くすることで手元が見えるようになります。これを目の調節力と言います。
つまり近くを見続けるということは、目の筋肉にずっと力を入れ続けることに他ならないのです。

上の遠く用メガネでは、遠点から近くのパソコン画面までピントを持ってくるのにたくさんの力が必要です。
下の近く用メガネなら、遠点からパソコン画面まではそんなに遠くないのでそこまで多くの力は必要なさそうですよね。

 

ですから、パソコン作業などで近い距離をメインで過ごす場合は度数を下げたメガネを作りましょうという話になるわけです。

パソコン画面までの距離は人によってまちまちでしょうから、そこまでの距離を確認してそれに合わせたメガネの度数を入れてあげることで最も負担のかからないメガネを作ることができます。

 

見たい距離はひとつじゃない

このように、見たい距離に合わせれば度数をどのくらい下げれば良いかが見えてくるわけですね。

 

ではここからが本題です。

あなたがパソコン用の距離に合わせて度数を入れたメガネをかけるところを想像してください。

 

そのメガネで見るのはパソコンだけですか?

 

PCを見ながら手元で書類作業をしたりしないですか?

部屋の壁にかかったホワイトボードの文字を見たい時は?

挨拶してきた人の顔を充分判別できそうですか?

資料を取りに歩き回る可能性は?

 

どうでしょう、案外色々な所に視点を移す機会がありそうな感じがしないでしょうか。
この時、メガネの度数をパソコンのみに焦点を当てて作っていた場合、前述のシチュエーションで何かしらの困った自体に陥る場合がありそうです。

たとえば仮にデスクトップパソコンの画面距離70cmに合わせたとすると、手元30cmで文字を書く時に焦点をあわせるのは難しそうです。逆にノートパソコンで40cmが見やすい度数にすると、部屋の中を見渡したときにかなりぼやけてしまうことでしょう。

 

つまり、メガネの度数を落とす時には、

あなたが必要とする複数の距離をなるべく網羅している度数

を入れるべきだと言えます。

 

パソコン画面よりもう少し遠くまで見える視力いるのなら、その分度数を落とす幅を加減する必要があります。代わりにパソコン画面を見る際はやや調節力を使うことになりますが、ある程度ならさほど問題ありません。長時間かけたときに眼精疲労の症状が表れない範囲で明視域を調節するのがベストでしょう。

 

もちろん完全にパソコン用と割り切っているならその距離に特化して作るのは問題ないです。
ただ結構あるのが、

「度数落とすとこんなに周囲が見づらいと思わなかった」
「最初はデスクワークだけのつもりだったけど意外と人に呼ばれて動く機会が多かった」
「適当に弱めに作ってもらったけどもうちょっと強く(弱く)てもよかった」

こういった声ですね。
共通するのは『度数を落としすぎると思ったより困ることが多かった』という点。

検眼時に使う場面をしっかりとイメージできていないとこういったことが起こります(これはヒアリングがきっちりできていない検査員にも原因があるのですが)。パソコンで使いたいんだからパソコンが一番見やすい眼鏡が良い!という気持ちはよくわかりますが、単純に近くの一箇所のことしか考えずに作ってしまうと、その他がおろそかになって使いやすい眼鏡ではなくなってしまうのはよくあることです。
パソコンとは離れますが印象に残っているエピソードとして、お寿司屋の板前さんが包丁を使うときに魚の身がよく見える距離の眼鏡を作ったら、お客さんの顔がみんなぼやけて常連さんの対応に非常に難儀したというお話がありました。これはまさに目的距離をまな板の上という一点にしか合わせなかったことが原因と言えます。

とはいっても単焦点で複数の距離をカバーするのには限界があるのも確かです。あれもこれも見えたいは難しいのが事実なので、一番優先するのはどこなのか、あとはどう度数を動かせば対応できる範囲が広くなるかを考えるのが良いでしょう。

かける人の調節力を把握しながらベストの距離で作ることで、不満点が少なく利便性の高い度数を導き出すことが可能です。

 

遠く用で近くを見るとどうなる?

繰り返しますが、人の目には調節力があります。
ですから遠く用の距離に設定されたメガネでも、調節力さえ充分に残っているなら近くを問題なく見ることができます。

でもその調節力を酷使し続けることで、様々な弊害が発生することも覚えておく必要があるでしょう。

距離の合わないメガネを使い続けると、

  • 目がしょぼしょぼする、かすむ、にじんでくる
    ドライアイで目が痛い
    頭痛、肩こり、吐き気
    集中できなくなって効率が落ちる
    目の疲労によってさらにものが見づらくなる

といった症状が出てくることがあります。
これらは眼精疲労と言って、ただ目が疲れただけの状態とは明確に区別されています。慢性的にこのような状態が発生するようになったらメガネの度数を考え直してみるのが良いと思います。

最近頑張りすぎたからちょっと疲れてるだけとか、年取ったらあちこちガタが来るのは当たり前だしとか、そんなことを考えて目のストレスを放置するとこのようにロクなことにはなりません。メガネを変えるだけで劇的に改善したという人もたくさんいますから、眼科医なり眼鏡屋なりに相談してみてくださいね。

 

2本のメガネははっきり見分けのつくものを

 

おまけの話ですが、遠く用と中~近距離用で複数のメガネを作るときは特徴にある程度差異のあるフレームを選んだほうが良いと思います。

なぜかというとシンプルに、似たようなフレームで作ってしまうと取り違えが発生する場合があるからです。

 

なんとなく手にとったほうが遠く用なのにずっとそれでデスクワークをしていたとか、
朝急いでいるときに咄嗟に手にとって出かけたら近く用で街中の景色が見づらかったので疲れているんだなと思ったとか、
本人は近く用だと思いこんでずっと使っていたものが実は遠く用だった、ということが眼鏡屋に来たときに初めて判明したとか。

度数違うんだからそんな間違え方はしないだろと思われるかもしれませんが、人の思い込みとは面白いものでこれが結構あるんですよ

度数差がかなり大きかったり調節力が少なかったりする場合はかけ間違えたときにはっきり差を感じるでしょうからこういったことは少ないかもしれません。
しかし人によっては2段階くらいしか度数差を必要としないときがあるのでその時は特に注意が必要です。例えば遠く用が-3.00Dだったなら近距離用が-2.50Dで使いやすいというパターン。この時はまさに先程羅列した状況に陥りやすいといえます。

なのでなるべくフレームは判別のしやすいものを選びましょう。
自分のメガネの好みに合うフレームばかりを選んでしまいがちですが、ここはひとつ冒険して普段とは少し違うメガネを選ぶチャンスだと捉えるのもいいかもしれませんね。

 

まとめ

今回は、

パソコンなどの中~近距離作業用メガネの度数を決定する際にはその場面をしっかり想像して、必要な距離がいくつあるかをちゃんとイメージすることが大切だというお話でした。

基本的にメガネはよく見える度数で作るものですから、初めて度数を落としたメガネを作ると思ったより遠くが見づらくなって「こんなはずでは!」となることが多いのです。
最初からそれがわかっていれば、検眼時にそれぞれの見え方をチェックして最適な度数を導きやすいですからぜひこのことは覚えておいて下さい。